理学・工学系統 ~理、理工、工学部など~
理学は人間を取り巻く自然科学の総称で、数学、物理学、化学、生物学、地球科学などの分野があります。一方、工学は理学の基礎知識を利用し、農学、医学などとともに応用科学として実用的な製品などの開発に役立てられています。最近では、この系統の学部・学科でも学問の細分化、学際化が進んでいます。また、国公立大を中心に大学院に進学する人も多くなっています。
自然科学の基礎を学ぶ理学
日本では、さまざまな最先端技術の開発が進んでいます。その水準の高さには定評がありますが、その基礎となっているのが理学です。
理学は、宇宙、地球、生物、生命、分子、原子、原子核など、マクロからミクロまでの自然や自然現象を対象とした学問です。学問領域は数学、物理学、化学、生物学、地球科学の5つに分けられ、最近では、研究テーマが分野間をまたぐことも多くなっています。
このうち数学は、理系分野だけにとどまらず、すべての科学的思考をあらわす言語としてとらえられています。最近では、情報理論の基礎学問としても重視されるようになり、コンピュータを使用して、物理学・化学・生物学・地球科学の理論計算、シミュレーション実験にも役立っています。数学科や数理学科、数理科学科のほか、コンピュータ科学と融合した研究を行う情報数理学科なども注目を集めています。
理学分野の中で、数学と性質が似ているのが物理学です。物理学はすべての科学技術の基礎となる学問で、自然界に存在する物質の運動や現象を分析。普遍性と論理性を見出していきます。その成果は電気や電波、半導体、コンピュータ、X線、MRIなどにも応用されています。
急速な進歩を遂げている生物学では、人間や動物、微生物、ウイルスなどの生物や生命現象を研究対象としています。最近では、遺伝子工学や生体工学などのバイオサイエンスやバイオテクノロジーの技術が飛躍的に伸びています。また、生命科学と関連が深く、医学や獣医学、農林・水産学などと連携した研究も行われています。
物理学と生物学の架け橋となるのが化学です。わが国の化学分野の研究は世界トップレベルを誇り、その研究能力は高い評価を受けています。大学で学ぶ化学は大きく物理化学・無機化学・有機化学・分析化学の四つに分けられ、工学、薬学、農学、医学などのあらゆる分野に応用されています。
地球の成り立ちや生い立ちなど、地球に関するあらゆることが地球科学の研究対象です。地質学・地震学などの地学領域から宇宙に至るまで、その専門分野は多彩です。人文・社会科学と連携して地球規模の問題を分析・解明し、環境と調和を保つ方法も研究されています。地学科や地球学科、地球環境学科、環境科学科、地球惑星科学科など、大学独自の学科も少なくありません。
理学を応用し、社会に還元する工学
理学を応用し、人間社会を豊かにする役割を担うのが工学です。
工学系の中で最も歴史がある機械工学はものづくりを基に、快適な社会生活を追究する学問です。現代社会に欠かせない機械・装置のハードウェアを幅広くカバーする機械工学はほとんどの工学部に設置されていますが、ロボティクス学科、機械・航空工学科など、研究対象をより明確にあらわした学科へと改組する大学も増えています。
機械工学と密接に関わりあっているのが電気電子工学です。現代社会に欠かせないこの分野はエネルギー、情報通信、回路・システム、デバイス・材料の四分野で構成され、電気や磁気、電子を利用して、人間社会で必要な技術の開発が行われています。
電気電子工学と近い関係にある情報工学では、実験と実習を重視したカリキュラムで、コンピュータのソフト・ハードの両面を学び、IT社会で活躍できる人材を育成しています。
人気の高い建築学は、建築設備や建築構造など、建物に関する基礎的な知識とともに、環境や経済、歴史にまで素養を広げて学びます。また、芸術的センスも必要とされます。工学部や理工学部に設置されている場合と、女子大を中心に、家政学部や生活科学部、芸術学部などに設置されている場合があります。
建築学が建物を対象としているのに対し、土木工学は人間が安心して社会生活を送れるように環境を整備し、文明の基礎を築く役割を担います。土木工学科のほか、都市建設工学科、都市環境デザイン学科などに名称変更する大学も増えています。
また、工学の中で新しい領域として注目を集めているのが、バイオ工学や医用工学系の分野です。これは、バイオサイエンスと工学を融合させた分野で、創薬や再生医療、遺伝子治療など、応用分野は多岐に渡っています。
このほか、さまざまなモノを構成する材料に焦点を当てた材料工学、情報技術や数理技術を学ぶ経営工学、資源・環境の課題に取り組む資源工学や環境工学などさまざまな学問領域があります。
農学・水産学・獣医学系統 ~農、畜産、獣医、水産学部など~
21世紀に入り、環境汚染や人口の増加による食料不足、エネルギーの枯渇など地球規模の課題が山積しています。こうした課題の解決に向け、生命・食料・環境に焦点を当てた最先端の研究が行われています。
食糧・環境・生命の実学を学ぶ
農学は人類が生きていくために必要なことを学ぶ実践的な学問です。食料・環境・生命に関する教育・研究が行われています。
大きく分けると、農作物の生産について専門的に学ぶ農学のほか、森林科学、水産学、畜産学、獣医学の5分野に分けられます。農学部を擁していても、これらの領域をすべて網羅している大学は多くありません。
農学分野には農作物の栽培技術を磨く農業生産科学、バイオテクノロジーや最新のサイエンスを学ぶ農芸化学、流通・経済活動を学ぶ農業経済学、農業を機械工学・土木工学の視点から学ぶ農業工学など、多彩な領域があります。なかでも土壌や肥料、農薬、環境修復など、農業生産の諸問題を化学の力で分析・解明する農芸化学は、バイオサイエンスとバイオテクノロジーへと発展し、理学系統の学問と同様、遺伝子操作や植物の品種改良など生命科学系の学びへと進化しています。
カリキュラムは実験や実習が多く、学内外の実習用の農場などでは、農作物の栽培をはじめ、農業機械の使い方などについて実体験を通して学べます。
森林科学は、森林の役割や利用法を科学的な視点から考えていく学問です。森林には木材を生産する以外にも、地球環境を作用する大きな機能があります。この分野では豊かな森林資源を持続的かつ計画的に利用していくためにはどうすればいいかを4年間を通して考えていきます。
自然科学と社会科学の幅広い分野を総合的・複合的に学ぶとともに、森林の適正な享受と環境保全の両方の視点を養います。広大な演習林を持つ大学では野外実習や調査、フィールドワークの機会が豊富です。
また、森林が持つ多様な生態系と環境の関わりを生物学的に追究していくために、生命・環境・資源・国際などの関連分野と連携した最先端の研究が進められています。
畜産学は、動物を科学的に追究し、食の安心・安全を支えていく学問です。クローン技術や新たな飼料資源の開発など、学びのフィールドが広がるにつれて、生命科学系の学問との関わりが強くなっています。
牛、豚、鶏、羊、馬などの飼育や生殖のメカニズム、畜産物の生産技術について幅広く学べるカリキュラムが整っています。また牛乳や卵、肉、加工品といった畜産食品、皮革製品や毛織物、医薬品の生産など、多様な分野で生かせる知識が身につけられます。酪農体験や牛の分娩体験など、家畜と接する実習が多いのもこの分野の大きな特徴です。
一方、獣医学科は医学部、歯学部と同じ6年制課程で学びます。獣医師養成に特化したカリキュラムが特徴です。
獣医師は人間の生活や暮らしに密着した伴侶動物(ペット)や産業動物、野生動物などに関する高度な知識・技術を持つ専門家です。各動物の疾病の診断・治療・予防などの動物医療に携わります。動物と人との関係が多様化する中、人間と動物に共通する伝染病の研究をはじめ、生命科学、医学、薬学、生化学などの境界領域も担います。獣医学科では動物に関わる分野について多角的に学べます。各大学には附属の動物病院や臨床実習施設が付設され、実験・実習を豊富に用意。講義で学んだ理論を実践力へと結びつけていきます。
また、6年制の獣医学科のほか、動物の看護や福祉などについて学べる4年制の学科もあります。
水産学はいまだに未知の領域が多い水生生物や環境について多面的に考えていく学問です。水域の食糧生産に関わる分野から、水域生態系の評価・保護・改善・修復・共生といった環境保全分野まで、幅広く学べます。
生命科学や生態学、生理学、養殖学、育種学、遺伝子操作、環境学など、化学や生物学を基盤とする多彩な科目により教養を深め、多面的な視点を養います。この分野は国際性の高い分野で、国際的な視野を養う科目も充実しています。
実験や演習を重視している点も大きな特徴です。実習船で漁業実習や海洋観測、潜水調査、人工衛生から送られてくるデータを用いた海域の環境解析、有機物・無機物のデータ収集といった作業を体験します。
医学・歯学・薬学・看護学系統 ~医、歯、看護、保健、薬学部など~
生殖医療や移植医療、遺伝子医療など、現代の医学は劇的なスピードで進化しています。医療の現場において「生命の質(Quarity of Life)」が問われるようになった現在、高度な技術や専門知識を養うだけでなくコミュニケーション能力や倫理観、豊かな人間性を備えた質の高い医療人の養成を目指した教育が行われています。
専門知識・技術を身につけ、 医療人としてのコミュニケーション能力と倫理観を養う
医学部は日本の最難関の学部です。適性が問われる分野なので、ほとんどの大学で入試の際に面接を実施しています。カリキュラムは、教養教育・臨床前教育・臨床実習の三つに分けられます。1年次では、一般教育科目を中心とする教養教育や、リハビリ施設や老人医療施設などの医療現場で実習を行い、倫理観や医師としての心構えを身につけます。
2~4年次では、基礎医学や臨床医学などの臨床前教育を受けます。この期間は実験・実習も多くなり、4年次には、その時点での学生の知識や技能、態度などを評価する全国共用試験が実施されます。これはCBT(知識テスト)とOSCE(臨床能力の実地テスト)で構成され、合格しないと5年次からの臨床実習には進めません。
5・6年次は臨床実習が中心となり、6年次に医師国家試験に合格すれば医師免許を取得できます。卒業後は、全国の大学病院で2年以上の臨床研修が必修化されています。
歯学部も医学部同様、6年制です。一般教養科目を履修し、基礎歯科医学や臨床歯科医学を学んだ後、5、6年次に臨床実習が行われるのもほぼ同じで、卒業後は1年以上の臨床研修を経て、一人前の歯科医師となります。
また、最近の口腔医療は、虫歯の治療を中心としたものから、歯の色を白くするホワイトニングや歯列矯正、顎関節症の治療など、患者の多様なニーズを満たす治療へと領域を拡げています。さらに、スポーツとの関わりも深いため、近年ではスポーツ外傷の予防・軽減や競技力の維持・向上を助けるスポーツ歯学の外来を設けている大学病院もあり、こうした幅広い知識を養うために、大学院に進学する人も増えています。
看護学は、大学の場合は4年制、短大の場合は3年制の課程で学ぶことができます。
教育内容は、幅広い視野と豊かな人間性を養う教養科目と高度な看護スキルを身につける専門科目、実践力を養う実習で構成されています。卒業とともに看護師の国家試験受験資格が得られるほか、保健師や助産師の受験資格、高校教諭や養護教諭などの教員免許が取得可能です。
臨床薬剤師を育てる6年制課程と、薬学研究を行う4年制課程
薬学を学ぶ場合、臨床を重視し、薬剤師を育成する6年制課程と、研究者の育成を目指す4年制課程があります。
6年制課程は薬学科や医療薬学科などの名称で、臨床薬学と医療薬学を中心に学びます。1年次では教養科目や基礎科目を中心に履修し、2年次から本格的な専門教育が始まります。早期から医療や薬局などでの現場体験の機会があります。4年次には全国共用試験が行われます。それまでに培ってきた知識やスキルを確認し、合格すれば5年次から病院や薬局での約半年間の実務実習が受けられます。6年次は卒業研究と薬剤師国家試験に向けた総仕上げが中心となります。
4年制課程は“薬科学科” や“生命薬科学科”“創薬科学科” などの名称を採用しています。薬について学べる点は6年制課程と同じですが、カリキュラムは創薬などの生命科学を中心としています。薬の研究に重点を置いており、大学院進学を視野に入れた教育が大きな特徴です。薬剤師国家試験受験資格は得られませんが、製薬会社や大学で研究・開発に携わる人材、医薬情報担当者(MR)など、活躍の場は広がっています。
医療技術系統 ~保健、保健衛生、医療技術、医療衛生学部など~
専門技術の修得を目指す受験生に人気があるのが医療技術系統です。近年、4年制大学での新学部・学科の開設が増えています。医師や看護師、薬剤師とともに、高度化・複雑化する現代の医療現場を支える医療技術のプロフェッショナルを育成しています。
新時代の医療を支える高度な技術を修得
医療技術系統の学部は、国家資格に直結したカリキュラムが特徴です。その内容は、対人ケアが中心のリハビリテーション系と、医療機器を扱う検査系に分けられます。
リハビリテーション系の資格には、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士などがあります。
理学療法士は、けがや病気、老化などによって身体に障害を抱える人たちの日常生活への復帰を支援します。ひじ・膝の曲げ伸ばしや歩行訓練などの運動療法と、マッサージや電気・光線・温熱などを使う物理療法があり、これらを組み合わせて治療を進めます。
作業療法士は身体や精神に障害をもつ人の社会復帰を助ける専門家です。入浴や食事などの日常的な作業のトレーニングや手工芸・陶芸・ゲームなどの趣味や遊びをとおして、心身ともに自立した社会生活を送る力を取り戻し、患者の社会生活能力の回復を助けます。言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションに障害のある人に対し、専門的な検査・訓練・治療を行います。さらに、視能訓練士は、斜視・弱視の訓練・治療や視機能の検査に携わります。
“超高齢化社会” を目前にして、リハビリテーション分野の有資格者が担う役割は拡大しています。就職先は、病院、診療所、リハビリテーションセンターのほか、介護保険制度の導入により、訪問介護での活躍も期待されています。
検査系の資格には、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士などがあります。
臨床検査技師は、病院で患者の血液検査や心電図検査、尿検査などさまざまな検査を行う専門家です。これらの検査結果に基づいて、医師は診断を下したり、治療の方針を決定します。診療放射線技師は、X線や超音波、MRIといった最新の画像診断装置を使って検査をしたり、放射線機器などの管理を行います。また、臨床工学技士は生命を維持する人工呼吸器や透析装置、人工心肺などの操作や保守点検業務などに従事。医学と工学にまたがる知識が求められています。
以上の資格取得を目指す医療技術系学部では、全体的に理系の科目が多くなります。また、医学部や看護学部を併設している大学では共同実習も実施しており、チーム医療について学べるシステムが整っています。