結婚したら同じ名字になるって、当たり前? 【高校生のための「法学」講座 12】
民法では、婚姻届を提出したカップルは同じ氏(名字)を名乗ることになっています。これを夫婦同氏(または夫婦同姓)といいます。夫側でも妻側でもどちらの氏を選択してもよいのですが、96%以上が夫側の氏を選択しているのが現状です。
しかし実際には、(とくに女性側で)夫婦同氏のために日常生活で不都合を抱える人や、婚姻前の氏を変えることに違和感を感じている人が少なくありません。
現在のところ、(1)婚姻届を提出して氏を選択するものの、日常生活では婚姻前の氏を使用する、(2)事実婚にする(婚姻届を提出しないので、どちらかの氏を選択する必要がない)、という方法が考えられます。ただ、(1)も(2)も根本的な解決策とはいえませんね。
家族のかたちや個人のアイデンティティのあり方が多様化する今、”夫婦”のかたちは「婚姻届」だけでは測れない社会になってきているようです。
「婚姻当事者の双方が婚姻前の氏を称することができる権利」が認められない状況が、憲法上の法の下の平等、婚姻の自由などに反するのではないか、と言われています。現時点で、裁判所はこの主張を認めていません。
また世論でも、夫婦別氏には根強い反発があります。その理由のひとつに、「日本の伝統に反するから」という主張があります。
夫婦同氏が日本で初めてルール化されたのは明治時代のこと。婚姻によって妻は夫家に入り、夫家の戸主権に服することが民法で規定されました。そのため、妻は夫家の氏を名乗らなければならなくなったのです。家父長制を重んじた当時の国家にとって都合のよい〈家族のかたち〉が、こうして法律によって決められたわけです。
ちなみにそれ以前、古代律令の時代から江戸時代までは、ずっと夫婦別氏が原則でした(もちろん現代的な夫婦別氏とはだいぶニュアンスの違うものでしたが…)。
私たちが考える「伝統」は、単に「何となく昔からそうだった」ことではなく、ある時・ある権力者が・ある意図をもって作り出した、きわめて人為的なものかもしれません。それを盲目的に「伝統」だと思い込むか、疑ってみるか。法学部を志すみなさんには、ぜひ疑ってみる人であってほしいです。
※イメージ写真は、立正大学法学部 岡崎 まゆみゼミの授業風景です