憲法は改正してはいけないものなの? 【高校生のための「法学」講座 3】
憲法改正の問題が最近よくニュースで話題になっています。
そもそも憲法は変えてはいけないものではないんですか?
絶対に改正してはいけないかというと、それは違うのではないでしょうか。
今の日本国憲法には、憲法改正についての条文が用意されています(憲法96条)。
つまり、憲法自身が、自分を改正してもいいよ、と言っているわけです。
ですから、憲法を改正することそれ自体は、憲法違反(違法)になるわけではありません。
ただし…
何ですか?
やってはいけない憲法改正もありうるんですか?
はい、これについてはいろんな考え方が出されているのですが、通説(多くの学者・実務家が支持している考え方)は、日本国憲法の基本原理の変更は許されない、と考えています。
具体的には、日本国憲法のいわゆる三大原理(国民主権、平和主義、基本的人権の尊重)と、さらには改正規定を改正することはできない、と解されています。
なぜですか?
なぜその部分を変えてはいけないのですか?
理由は、それが日本国憲法のアイデンティティ、あるいは今の憲法の根本的な性格に関わる問題だからです。
日本国憲法の前文は読んだことがありますか? 冒頭の文章、あれはとても長い文章ですが、主語と述語だけ取り出すととても簡単です。「日本国民は…この憲法を確定する。」
それと何の関係があるのですか? だいたい、70年も前の話ですよね、憲法を作ったのは。
今の人たちはほとんど生きていない時代ですし。
少なくとも私たちは、そこにいう「日本国民」には含まれていないはずです。
これはもう、どの時代のどこの誰が「日本国民」か、という問題ではありません。「日本国民」という、時間を飛び越えた理念的存在が、日本国憲法の基本原理をあの時点で選び取った、ということです。
これを言い換えると、今の憲法が国民の名において提示され、国民によって受容された、という説明の方が分かりやすいでしょうか。
もちろん、国民は今の基本原則をたまたま選択した、というわけではありません。この基本原則が人類普遍の政治道徳であるから当然のように選んだ、ということです。
それで?
現在の国家システムは、すべて憲法によって作られたものです。
たとえば、考えてみましょう、なぜ、あの国会議員たちで構成されるあの国会が、私たちの人生を大きく左右するほどの法律を作ることができるのでしょうか?
憲法が国会にそれを許しているからです。憲法がそういうシステムを作っているからです。
つまり、すべての権限は憲法に由来するのです。
憲法を改正する権限もその例外ではありません。
なるほど、ということは憲法によって作られた権力が、憲法それ自体の性格を完全に変更することはできないわけですね。
「軒を貸して母屋を取られる」というようなことがあってはいけない、ということですね。
もちろん、三大原理や改正規定の一言一句を変えてはいけない、というわけではありません。
基本原理の原理的な変更が許されない、ということです。
では、もし仮に、憲法の全面改正がもし実現したら、そして三大原理がなしになったとしたら、どうなるのでしょうか。
これは違憲ですよね。
違憲でしょうし、無効だとも言えるでしょうね。
でも同じように、明治憲法の時代に生きて、明治憲法の基本理念を心底信じてきたような人からすれば、今の日本国憲法も、明治憲法に違反して違憲・無効だ、と考えることでしょう。
あ、そうか…。では、実は日本国憲法は無効なのですか?
そんなわけないでしょう。少なくとも今さら。
※イメージ写真は、立正大学法学部 岩切大地ゼミの授業風景です