ウサギが訴訟を起こすって本当なの? 【高校生のための「法学」講座 9】
Q. ウサギが「原告」って?
A. 日本の法制度では、「人」(自然人+法人)しか裁判に訴えること(これを法律用語で「原告適格」といいます)はできない。動物は、動産と同じ(物と同じ扱い=民法86条2項)だよ。だから、厳密にいえば、動物たちの訴えを人間が代弁するという形をとって、裁判が行われたんだ。ちなみに、外国でも、鳥(アメリカ)やサンショウウオ(韓国)が原告になったことがあるんだよ。
Q. 裁判の結果は?
A. 結局ウサギ(の代わりを務めた人)の「原告適格」は認められなかった。でも、このユニークな裁判は多くの社会的関心を呼び起こし、ゴルフ場開発は中止になったんだ。また、法的にみても、裁判官たちは本件訴訟の問題提起を受け止め、原告が主張した「自然の権利」の観念に一定の評価を示すなど、今後の環境法制のあり方にとっても重要な布石となったといえるだろうね。
本件の被告は、鹿児島県です。同県は、森林法という法律に基づき、ゴルフ場開発業者に林地開発行為の許可を出しました。原告らはこの許可処分の無効確認、取消を求めて、行政事件訴訟法に基づき、訴えを起こしたのです。
このような問題に本格的に関心を抱いたのはアメリカです。たとえば、「シエラクラブ対モートン事件(Sierra Club v. Morton)」は、アメリカ合衆国で1965年に提訴された自然保護裁判であります。自然保護団体のシエラクラブが、ウォルト・ディズニー社によるミネラルキング渓谷の開発計画について、開発許可の無効確認を求めて、当時ロジャース・モートン内務長官を訴えたものです。2審判決までは、原告シエラクラブには何の法的権利侵害も生じることがないとして、訴訟要件である原告適格が欠けることを理由に却下判決が下されましたが、本事件は法的には原告敗訴に終わったものの、訴訟の長期化によるコスト増大から開発計画が中止されたため、原告にとっては事実上の勝訴であったともいえる重要な意味がありました。
きみも、国や地方自治体の行政行為から市民生活を守るために、このような知識を知っておくと「環境法」「行政法」「行政救済法」などの知識を活かせるかもしれません。
※イメージ写真は、立正大学法学部 李斗領ゼミの授業風景です