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    大学ニュース

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    卓越する大学2016 特集[ Special Interview ] 松尾 清一 先生


    ――21世紀に入って、ノーベル賞を受賞した日本人科学者13人のうち、6人が名古屋大学の関係者です。

     大学の規模としては東大や京大よりも小さいのに、なぜノーベル賞受賞者がこれだけ輩出するのか。名古屋大学が誕生したのは1939年のことで、「旧七帝大」の中では最後発でした。そこに戦後、全国から若くて優秀な人材が集まった。彼らがよい競争環境の中、自由に研究に打ち込めたこと、そうした「自由闊達」な精神がプラスに働いたのだと思います。
     昨年のノーベル賞では、赤﨑勇先生は京都大学を卒業後、企業と大学を行き来され、定年退官されるまで名大で教鞭を執られた。その赤﨑先生の指導のもと学ばれたのが、若手の現役教授として同時受賞された天野浩先生です。すぐれた研究の伝統が本学の中で受け継がれた。非常にうれしいことです。

    ――自然科学の分野は飛躍的な勢いで進化しています。こうしたダイナミックな知的世界に応える力が名古屋大学にある。

     真理を探究する、その最先端の分野は競争が非常に激しい。学問を伝統的に守っていくことは大事ですが、多様な分野を融合して新しい分野を創ることも重要です。スマホやLEDなど、世の中を大きく変えるイノベーションは、まさにそういったところから起こっています。
     本学では現在「世界トップレベル研究開発拠点プログラム」(WPI)を展開しています。その拠点であるトランスフォーマティブ生命分子研究所は理学部と農学部の異分野融合です。研究者の年齢も40代半ば以下とみな若い。そして、全体の3分の1が外国人研究者です。こうした世界的な研究開発拠点を独立した研究所として作り、全学を挙げてバックアップをする。それができているのが名古屋大学ではないかと自負しています。

    「産学官連携」をキーワードに先駆的な融合研究を展開

    ――名古屋という都市自体が自動車産業や航空宇宙産業などに強く、ものづくりの世界的な集積地です。多様な産業が融合する、イノベーションのための土壌が根づいているのではないでしょうか。

     本学の融合研究の象徴的な拠点と言えるのが「COI STREAM」(革新的イノベーション創出プログラム)拠点です。今年3月には東山キャンパスに「ナショナル・イノベーション・コンプレックス」(NIC)という地上8階建て、床上面積1万5000平米の大きな建物が完成しました。そこが産学官連携のいわばヘッドクオーターになります。

    ―― 一つの目標に向かって、企業の研究者や行政と「アンダーワンルーフ」(一つ屋根の下)で研究するわけですね。

     10年、20年後の日本はどうなっているのか。そのためにいま、何をすべきなのか。将来像から「現在」に問題意識を投げかける。いわば、“バックキャスト”という発想に基づいた研究を行わなければならない。そのために必要なオープンイノベーションの場が「NIC」なのです。

    モビリティで超高齢社会に対応 次世代の炭素素材にも注目

    ――その「COI」拠点では、少子高齢化が加速する中で縮小が懸念される日本社会に活力をもたらす研究が行われています。

     テーマは「モビリティ」です。名古屋が世界的な自動車産業の拠点であるということもありますが、人が活発に動かないと社会も活発にはなりません。移動距離は健康度にも比例しますので、高齢化しても安全に移動できる社会を考えてみようというものです。研究は非常に順調で、新しい産業として応用できそうなシーズ(種)がたくさん生まれている。可能性が大きく広がっています。

    ――ほかにも、ナショナルコンポジットセンター(NCC)では次世代の炭素素材の研究が行われ、注目を集めています。

     日本は、軽くて丈夫な複合材料を供給する面では世界をリードしていましたが、加工技術では遅れをとっています。そこでNCCに企業の研究者も集まってもらい、そこで協調的な研究を行っています。研究にめどがつくと、その先は各社で競争になるわけですが、基盤的な部分は名古屋大学で行われているのです。
     いずれにせよ、基礎的でとんがった研究と、COIやNCCのような応用的な研究は異なります。そこで、世界屈指の知的成果となる学術研究の部分については「高等研究院」という組織が担い、応用実用化、社会イノベーションを目指す研究は「未来社会創造機構」という組織を通じて推進していこうと取り組んでいます。

    「スーパーグローバル」に採択 女性の支援でも世界的に注目

    ――名古屋大学は、「21世紀Sustainableな世界を構築するアジアのハブ大学」でスーパーグローバル大学創成支援(タイプA)に全国の13大学の一つに採択されました(詳細は「名古屋大学」記事を参照)。

     ここで謳っているのは4つ。1つは「世界最先端」。研究成果を次々と生み出す。2つ目は世界水準、国際標準の教育を目指す。3つ目は国際化。4つ目はアジアのハブ大学になる。いずれも、ただ研究をするだけではなく、研究「人材」を育成していかなければ持続させることはできません。これも広く「教育」であると考えると、名古屋大学もずいぶんと変わっていきます。国際標準の大学を目指し、世界トップ100といわず、もっと上を目指していきたい。

    ――大学の使命として、社会貢献や男女共同参画などもあります。松尾総長は今年、国連女性機関から、女性の地位向上のために先進的な活動をしている「世界の10大学長」の一人に選ばれました。

     社会貢献は「何のためにやるのか」を考えて行動しなければなりません。
     経団連のレポートによると、日本は少子高齢化が進み、15-60歳の労働人口が減る一方、65歳以上の高齢者はどんどん増える。社会全体が衰退し、不活発になると予測されます。その時にどうするのか。
     ひと言で言うと、社会の多様性を促進する。なかでも、女性の活躍は大きなテーマです。外国人や、障がいを持つ人々も含めた多様性の中で、社会は豊かになり、大きく変わっていくのです。そうした先進的な取り組みを、本学がヘッドクオーターになって全国に広げていきたい。

    ――先生は、医学部附属病院長時代には大学病院改革にも取り組み、「中部先端医療開発円環コンソーシアム」というネットワークも作られています。

     希少な病気だと、1つの大学だけでは症例は集まりません。これを、中部地方の大学病院や研究機関など12施設が連携して共同登録をするとか、共同倫理審査委員会を開催したり、人材育成に取り組むなどし、おかげさまでコンソーシアムの活動は順調に発展しています。創薬のプロセスも加速しますし、いろいろな大学の持つシーズをもれなくピックアップできるという意味で、素晴らしいシステムができたと思います。

    ――グローバル時代を迎え、大学の機能は高度化していますし、その教育や研究の成果に対する社会からの期待はますます高まっていますね。本日はありがとうございました。