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    大学ニュース

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    卓越する大学2016 特集[ Special Interview ] 吉澤 靖之 先生

    使命感と思いやりを持った21世紀の医療人を目指せ

     いま、世界全体の人口は爆発的に増えていますが、日本をはじめ欧米の先進国では人口減少が進み、急速な少子高齢化が進んでいます。超高齢社会を迎えたわけですが、2030年からは高齢者の数も減り始めます。もちろん若い世代も減少します。こうした流れに対応して21世紀の医療は、先制医療が中心になってくるでしょう。先制医療というのは「個別化予防医学」で、個人の遺伝的背景を基にした一次予防をいいますが、老いも若きも元気に病気をせずに人生を送るための医療です。そして、二次予防で早く病気を見つけて早く手を打つことも重要になってきます。もう一つ在宅医療も欠かせなくなります。その在宅医療で大事なのはチーム医療で、チーム医療ができる医療人を育てることも急務です。
     こうした中で、我々はどんな医療人を目指すべきなのかを考え、東京医科歯科大学では今年、「基本理念」を策定しました。「知と癒しの匠を創造し、人々の幸福に貢献する」ことを謳っており、これこそが東京医科歯科大学の、そして医学・歯学を志す者のミッションだと思います。
     ここでいう「知」とは、知識と技術と自己アイデンティティであり、「癒し」とは教養と感性、多様性を受け入れるコミュニケーション能力のことと言えましょう。どんなに技術や知識があっても、己を知らなければ医療人として失格です。患者さんの多様性を受け入れなければいけませんが、己がしっかりしていないと、その多様性を受け入れて、専門家として正しい助言をするのが難しくなります。そこで、「知」に自己アイデンティティが加わるのです。
     相手の心を理解した上で、専門家としての助言ができること、なおかつ一緒になって悩み、苦しむのが医療人です。だからこそ、人間としての教養、感性とコミュニケーション能力が欠かせないのです。
     東京医科歯科大学では、こうした観点に立って使命感と思いやりを持った医療人の養成を進めており、「課題を与えて解決させる」という従来のやり方から「課題を自分で見つけ出して解決方法を考える」ための教育に取り組んでいます。
     患者さんは一人ひとりみな違います。患者さんのバックグラウンドについての理解を含めた全人的医療が求められているのです。個々の疾病の中に新しい発見があると言われるように、常に疑問を持ち問題を解決していくことが大切です。

    コミュニケーション能力と教養、感性を身につけよう

     こうした医療人の道に進むため、高校時代には先ほど述べた教養と感性、多様性を受け入れるコミュニケーション能力の3つを身につけてほしいと思います。
     教養とは、幅広い知識と精神の修養などから来る創造的活力や心の豊かさ、理解力であり、状況の変化に広い視野から的確に対応できる力と定義することができます。感性は、外からの刺激に応じて何らかの印象を感じ取る、その人の直感的な心の働きであり、その感じたことを何らかの形で表現する力です。
     そして、その上で人格(人間性)を磨き、幅広い基礎的学力や語学力を養い、広い視野と国際性を涵養してもらいたいと思います。人格に関してはこんなことがありました。ある時、医師がちょっとした交通事故を起こしました。車を運転していて自転車に乗っていた人と接触したのですが、その医師の第一声は「私の人生どうなるの」だったのです。倒れた人に「大丈夫ですか?」と声をかけるのが医師としての当然の行為です。こういう人は医師にならないほうがいいと思います。
     ところで、アメリカでは大学に入ってから方向の大転換をして医学部に入り、医師になった人もいます。次代を担う若い世代の無限の可能性を引き出すためにも、こうした幅広い選択の余地があっていいと思います。医学部と歯学部間の転科や、本学が四大学連合を組織している東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学との間で転学が認められるような柔軟な体制を構築することについての議論が始まりました。

    世界の人々の健康向上に挑戦する人材を育成

     本学の「TMDU型グローバルヘルス推進人材育成構想:地球規模での健康レベル向上への挑戦」が、2014年度の文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」タイプA(トップ型)に採択されました。わが国は、2014年の平均寿命で女性が世界1位、男性が世界3位となった世界トップクラスの長寿国であり、国民皆保険をはじめ保険医療の分野の制度が充実しています。その経験と実績を踏まえて、世界の健康レベルの向上に貢献しようというもので、新設する「統合教育機構」と「統合国際機構」を軸に、グローバルヘルスを推進する人材の育成に全力を挙げます。
     本学では、これまでも野口記念医学研究所共同研究センター(ガーナ)と東京医科歯科大学・ラテンアメリカ共同研究センター(チリ)、チュラロンコーン大学・東京医科歯科大学研究教育協力センター(タイ)の3つの海外拠点に医学科や歯学科、口腔保健学科の学生を派遣しています。また、ハーバード大学での臨床実習や、インペリアルカレッジロンドンで医学科学生が研究実習を行っています。
     さらに、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、これに対応してスポーツサイエンス機構を設置したのをはじめ、テロ対策のためのER(救急救命室)拡充や、日本を訪れる人たちの診療のため東京外国語大学、早稲田大学と連携して語学対応を図ることにしています。

    患者さんから信頼される全人的医療の実現を目指す

     これからの医療をさらに充実させていくためには、医学・歯学・工学の連携体制をより強化することと、全人的医療の実現を目指すことが求められています。医学・歯学連携では、国内の大病院でも歯科がないところが多い現状を踏まえ、病院に歯科を作っていただき、患者さんの歯科チェックをすることなども考えていかなければなりません。医学・歯学・工学の連携では、歯科材料を含む生体材料と医療器材の研究を推進している生体材料工学研究所および難治疾患研究所と、医学部・歯学部の有機的協力体制をさらに推進します。
     全人的医療では、総合診療科の創設を視野に入れています。例えば合併症を起こした場合などでも、あらゆる角度から患者さんを診ることができます。冒頭で述べたような超高齢社会に備えた「長寿・健康人生推進センター」も来年4月からスタートする予定です。
     そして、「教職員と学生が誇りと気品に満ち、生き生きしている」「患者さんは本学の病院を信頼し、受診していることを誇りに思う」「同窓生が胸に本学のバッチを付け、それぞれの社会で活躍している」という大学の将来像の実現に向け、「積極思考で全力を尽くす」「己を知れば邪心なし」の精神をモットーに、「世界に飛翔する知と癒しの匠」の育成に全力を注いでいきます。